ニュースレター No.5 (2008年2月発行) (1)(2)(3)(4)(5)
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ソロクトの長老で、早稲田大学での講演会(IDEAジャパン&WAVOC主催)で「韓国のハンセン病問題と日本」について話してくださった金新芽さんが、昨年8月、急逝されました。日本と韓国のボランティア、とくに若者たちの精神的支柱として慕われ、尊敬されていた人だけに、ご逝去が惜しまれています。
韓国のテレビ局で、金新芽さんのドキュメンタリー番組が放映されましたので、ご紹介します。

▲ハーモニカを吹く金新芽さん/2006年10月

SBS放送 2007.07.20 放映
ドキュメンタリー「愛のハーモニカ」

菊池義弘(翻訳)

○海から見る小鹿島の全景
美しい海に囲まれた景色がきれいな島、小鹿島。その小さな島の中にある国立小鹿島病院ではハンセン病患者たちに対する慈善奉仕をする人たちの手が休まることはない。
○小鹿島病院内の病室
ここに特別な夫婦がいるという。
ジュ・ウォルスクさん(慈善奉仕者) 「おばあさんに接する時、とても愛情を込めてされるんです。私も年をとったら、あのような夫婦になりたいと羨ましく思っています。」
○鄭鳳熙さん (金新芽夫人)の病床での金新芽さん
毎日、昼食時に聞こえて来る音。そこでは、あるハラボジ(おじいさん)がハーモニカ演奏をしていた。
○ハーモニカの音 / ♪「われらの願いは統一」
取材者が近づくのもわからないまま、ハーモニカの音色に浸っていた老夫婦。どれだけ時間が流れたことでしょう。
妻がベッドからずれ落ちてしまわないようにとベッドの横の木柵を持ち上げてあげた後、安心して自分部屋に帰って行きました。
取材者 「ハラボジは目が不自由なんですか?」
金新芽さん 「はい。よく見えません。」
ハラボジは一級視覚障害者だ。
○病棟から靴を履いて出て行く金新芽さん
一日に一回、妻と会って30分間一緒に過ごすために、病院と部屋を行ったり来たりするというハラボジ。
取材者 「どれくらい、ここにいらっしゃるんですか?」
キム・ジヨン (小鹿島病院 看護士) 「この病棟に来て3年くらいになります。」
取材者 「3年間、毎日来ているんですか?」
キム・ジヨン 「はい。他の病棟にいた時も毎日、来ていたと聞いています。」
○部屋に帰るために廊下を一人で歩いている金新芽さん。言葉が話せない妻の痛みを、ハラボジは他の誰よりも一番良く知っている。
○病棟に向かう廊下
次の日。84歳のハラボジは、いつものように今日も妻に会うために歩いて来た。心の中では一歩でも早く近くに行きたいと思いながらも、しかし・・・。
○廊下の柱に体をぶつける金新芽さん
妻の下まで行く道は簡単ではない。他の人なら5分で行ける距離だが、30分以上もかかって、ようやく妻に会えた。3年間、毎日、歩いている道。
○病棟で鄭鳳熙 さんのベッドの場所がわからず彷徨う金新芽さん
来る道は大変であっても、妻の手を握った時、気持ちがほっとした。
○手を握り合う金新芽さんと鄭鳳熙 さん
目が不自由なハラボジが妻にしてあげられることはほとんどない。
○手を握りながら話しかける金新芽さん
○ハーモニカを吹き始める金新芽さん
ハラボジがしてあげられること、ハーモニカ演奏。妻は初めは何もわからない状態だったが、少しずつ夫の心が通じて来た。いつもは顔に表情がない妻が一日に一回だけ笑うのが、夫に会う時間だ。
○別の日、病床での金新芽さん夫婦
病棟に響き渡るハーモニカのメロディー。
○隣のベッドのハルモニハルモニ (おばあさん)
「以前、ハルモニが元気だった時は、ハラボジと一緒に日本にも行ったことがあるんだよ。ハラボジは今でもピアノを弾くのも上手で、音楽は上手だよ。ほんとに毎日、ここに訪ねて来るんだよ。」
○夫婦の若き日の回想シーン
○公園のベンチでハーモニカを吹く金新芽さんに膝枕をしながら寝そべって見上げるまだ20代の鄭鳳熙 さん。ハーモニカが繋ぐ夫婦の愛は53年前に始まった。夫が演奏する姿を見て一目ぼれした妻。
○新婚時代の部屋。視力を失った夫の代わりに、妻は夫の目となった。50年を越える歳月、妻の目を通して世の中を見てきたハラボジ。
○病棟から部屋に戻る金新芽さん
いつも目になってくれた妻がいなくなったことは大きい。健康だった妻が倒れて体を痛めたのは自分のせいではないかと思う。何かしてあげられる事はないかと迷ったハラボジ。
○ピアノを弾きながらハーモニカを吹く金新芽さん
二人が知り会った頃、音楽が好きだった事を思い出し、ハーモニカ演奏こそが最善の選択だと、妻への愛情をハーモニカに込めた。
金新芽さん 「夫婦の愛情とは、生涯、恋愛の感情を抱きながら生きて行くことだと思います。年をとっても、いつも、こうして会うと、初めて会った時のような気持ちがするんです。」
○病棟に向かう廊下を一人歩く金新芽さん
「毎日 暗闇の中を歩いて あなたに会いに行く 今まで一日たりとも欠かしたことはない あなたの輝いた微笑を見たくて 30分の幸せを求めて 今日も訪ねて来ます」
○病室での金新芽さん夫婦
妻への愛情をハーモニカに込めて吹くことが、妻にとってどれだけ助けになっているだろうか。
○病室から部屋に帰る道の金新芽さん
一時間でも二時間でも、いつまでも一緒にいたいのだが、たとえ短い時間であってもそれには理由があるという。
金新芽さん 「私が病棟に行くと他の人たちが見るのです。病院に一人でいる方たちは皆、寂しく過ごしているので、それで、私が一日に一回でも訪ねて行くのは、他の人たちに対して、とてもすまない気持ちもあります。」
○病室でハーモニカを吹く金新芽さん
金新芽さん 「人は目だけで見ているのではないじゃないですか。心でも見ることはできる。」
「世の光となりなさい」という聖書の言葉から、大きな励ましをいただいたというハラボジ。
○小鹿島の海岸にて 車椅子の鄭鳳熙 さんの手を握りながら話かける金新芽さん
金新芽さん 「今までいろいろ苦労をかけてすまないね。いつか天国に行く日まで、この世にあっても、二人で楽しく生きて行こうな。」
いつでも、どこであっても、夫婦が二人で一緒に生きているならば、たとえ遠い道であっても、決して寂しくはない。<END>

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